プロフィール

satyanamak*motiDD

Author:satyanamak*motiDD


2006年夏、
人人人ひしめくムンバイに
猫猫ひきつれやってきた二人組。
夫 Satyanamak と妻 MotiDD
2008年11月には新たに
ムンバイ生まれのチントゥーも
登場しました。

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【MotiDD】鳥たちの大きな木

08月15日, 2011 | 未分類

2 Comments
アショーク・ラーナデー先生が亡くなった。

訃報●DNA
訃報●Times of India

ラーナデー先生は、引っ越す前の家から徒歩二分ほどのところにお住まいの、
音楽の学者の先生だった。
友人が引き合わせてくれ、近所ということも幸いし、
しばしば家で行われるリハーサルや練習を見せていただいたり、
先生のお誕生日会にまで招んでいただいたこともあった。
私が個人で教えてくれる歌の先生を探していたとき、
ムンバイ大学音楽学部で教えているお弟子さんを紹介してくれたのも
ラーナデーご夫妻だった。

部屋の中心に座る先生をお弟子さんたちが取り囲むかたちで、
いつも練習は行われていた。先生の背後には大きな古時計が時を刻む。
インド音楽だけでなく世界のあらゆる民族音楽に詳しい先生の書斎は、
さまざまな言語の本でいっぱいの、背の高い書棚に囲まれている。

練習に集まるのは、三十~四十代のお弟子さんたちと、
タブラーやハルモニウム、ドールキー(小型の両面太鼓)や
ヴァイオリンなどの伴奏メンバーたち。
ただの練習という時よりも、目前に控えたコンサートのリハーサルを
よく見せていただいたように思う。
お弟子さんたちはそれはもう歌がうまく、我々の耳には非の打ち所がなく
素晴らしく聞こえるのだが、たまに先生がお弟子さんに歌わせたあとに
訂正する箇所があるらしく、明瞭な説明を交えながらお手本を歌って聴かせると、
お弟子さんや伴奏家たちのあいだそこかしこから
「チッ」という感嘆・賞讃の舌打ちの音が起こった。
心からの賞讃の目が、ラーナデー先生に熱く注がれていた。
四階にある部屋の窓の外には、背の高い木々が見える。
この家が、歌の上手な鳥たちの集まる大きな木のようだな、と思う。

先生ご自身が歌われることはほとんどなかったが、
先生とそのお弟子さんたちのコンサートは、いつも熱心な聴衆で満員だった。
いわゆるインド古典声楽のカヤールやドゥルパドといったものではなく、
トゥムリーやタッパなどと言われる小品(スガム・サンギート、あるいはライト・クラシカルとも言われる)が主。
舞台脇に端座した先生がレクチャーをして、その話の内容に関連する短い一品を
舞台にずらり居並んだお弟子さんが歌う、という形式のコンサートが多かった。
先生のCDアルバムも、必ずこのレクチャーが同形式で収録されていた。
先生の作られる歌もさることながら、このレクチャー部分に絶大な人気があるのだ。
聴衆は、時には熱心にメモを取りながら、またしばしば大きな笑いの渦に包まれつつ、
飽くことなくプログラムを楽しんでいた。
練習のあいだは全部マラーティー語、講演もマラーティーで行われることが
多かったので、マラーティーがわかればなぁ、と幾度も思わされた。

豊かな白い髪をまんまるく後ろに結ったミセス・ラーナデーは、
いつも隣室のブランコに揺れて練習を見ていた。
なにか言いたいことがあると「ラーナデー」と先生の名字を呼んだ。
“目上に対し名を呼ぶのは無礼”という文化にあって、こういう老夫婦は非常に珍しい
(最近の世代では、夫の名前呼び捨ては一般化している)。
眼鏡の奥の、意志のはっきりした眼差しが印象的な女性で、
“老婆”とは呼べないような鮮やかな強さを感じる方だ。
子どもがいないせいなのか、密度の濃いご夫婦だった。
目を合わさずとも、触れずとも、語らずとも、つながっているような。

亡くなられた翌朝、火葬に出される直前の先生の家に、最後の挨拶に行った。
ミセス・ラーナデーは、両脇を女性に付き添われてベッドに座っていた。
看病されているあいだの心労で、すっかり痩せてしまっていた。
笑っているのか泣いているのかわからない表情で、顔が固まってしまっていた。
この女性はこのまま痩せて痩せて、命を細くして細くして、
償・Cの芯が尽きるように、亡くなってしまう。そう思った。
挨拶をと思い近づいたが、彼女の細い手を取って泣くしかできなかった。

雨に濡れながら家に帰ると、どこかからキングフィッシャーの声。
泣き声のように悲しく、白い空に響いていた。


最近の脳内パワープレイは、悲しすぎるこの歌。
武満徹作曲、石川セリの声でMI・YO・TA。


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